その日

大通西三丁目

コロナのせいで大嫌いなマスクも生活の必須アイテムとなった。メガネをかけている人間にとってマスクは厄介ったらありゃしない。ご存じの通り吐息で曇ってダサいのである。

高校時代は部活のときのみコンタクトをしていたが、部活を引退するとしなくなった。また当時使っていたものが一か月タイプで使わずに放置して一か月以上経過してしまい、そのうち行方不明になってしまった。

マスク外出をしているうちに、自分の顔面に合った曇らないマスクの付け方を見つけたメガネユーザーの方も多かれ少なかれいるだろう。僕の場合はマスクの針金をメガネの鼻あてぎりぎりの位置でキュッと鋭角に曲げて装着すると曇りにくくなる。このせいで顔面の四分の三程度がマスクに覆われてしまい誰が誰だかわからない。かえってこっちのほうがダサいかもしれないとはたまに思うが、今のところこれしか曇らない付け方が無いのだから仕方がない。

八月だっただろうか。大学は夏休みだった。その頃は何かを求めて大通公園を歩くことがよくあった。そんなある日、ドストライクの女性に逆ナンされていつの間にか交際がスタートしていた、なんて出逢いは期待しただけ無駄だった。しかし大通公園は大好きな場所だ。特に夏は素晴らしく、カップルやら家族連れでにぎわい、暑さをもろともしない噴水と札幌中の日光を集中させたかのような光。そこはビル街のオアシスに思えた。

その日も大通りに繰り出し、特にあてもなく西三丁目を北に歩いていた。右からはテレビ塔に見下ろされ、左では噴水が僕とは対照的に優雅に人々の視線を集めている。

その時だった。斜め前方からくる女性に見覚えがあるような気がした。ラグビー部時代のマネージャーのIだった。Iも僕に気づき飛びかかってきた。相変わらず明るい子だ。底抜けに明るく幸せそうな彼女を前に、何もかも上手くいっていない鳴かず飛ばずの日々を送る僕は少し情け無さを感じたが、それでも久しぶりの再会は嬉しかった。

Iは高校の友達三人で札幌に遊びに来ていた。一人は僕が高校三年のときに同じクラスだったT。もう一人は名前こそ知らないものの顔は見たことがある女子だった。

近況を報告したり雑談をした後写真を撮った。カメラマンはI。

家に帰るとIからラインで会えて嬉しかったというメッセージとともに写真が送られてきた。その写真は顔色や目の加工が施されていた。僕以外の三人はマスクをしていたものの顔色も表情も綺麗でかわいかった。しかし僕は何の加工も施されていないようで顔色がとても悪かった。元々僕は肌が黒いし、今思えば写真を撮る際上手に笑えていなかったような気もする。死人の如き顔色をした不気味な男がそこには映っていた。もしも「この四人の中で一人だけ人生上手くいっていない奴がいます。それは誰でしょう?」というクイズがあれば百人中百五十人が僕を指すだろう。

おそらくメガネの曇り対策のため顔の殆どをマスクに覆われ、露出している皮膚の面積が少なすぎた僕は写真加工アプリに人間の顔と認識されなかったのだろう。僕はそれから間もなくコンタクトを作った。

 

北海道教育大学旭川校

僕はセンター試験最後の世代だ。旭川の受験生の殆どはセンター試験を旭川医科大学か旭川教育大学で受験する。僕の家から医大へはバス一本で行けるため医大で受験したかったが、教育大に割り振られた。僕の母はペーパードライバーなので行きの駅前まではバス、そこから教育大に行くのと帰りはタクシーを使いなさいと言った。中々太っ腹だ。

二日目の帰りのタクシーがなんと一日目の帰りと同じドライバーの方だった。「教育大から南二条に行くお客さんなんて珍しいと思いましてね」そんなことを言われたような気がする。

最近鬼滅の刃を全巻読み終わった。思えばあの日、僕も呼吸と技を使った。

 

センターの呼吸 壱の型 整数全落とし

弐の型 リスニング段ずれ

 

紀伊國屋2Fのスターバックス

一九才になっても人生で一度もスターバックスで飲み物を買ったことがなかった。

最近趣味を作ろうと思い、コメダ珈琲で読書をするようになっていた。読書とコーヒーどちらかでも趣味にできればと思っていたが、今のところ二つとも悪くない。鬼滅の刃や又吉直樹さんの本などを読んだ。その流れでドトールに行くこともある。もうそろそろスタバもいいんじゃなかろうか。

あくまで読書という口実で紀伊国屋の二階のスタバに行った。ドリップコーヒーのグランデを買った。グランデという英単語の意味は知らないがとりあえず大きめのサイズだ。スタバは何でも高いと思っていたが、コーヒーだけならコメダよりも安かった。なんならクリームがたっぷりのったフラペチーノとか期間限定の桜のやつとかもそこまでコメダの甘い飲み物と大差のない価格だった。「何となく高そうだから」と今までスタバに行かなかった。勿論それだけが今まで行かなかった理由という訳ではないがちょっともったいなかったかもしれない。

本当は窓に面した席で優雅に読書をしたかったが、窓側の席はすべて埋まっていた。「スタバは混んでるんだよ」とスタバに行かなかった今までの自分を正当化するように心の中で独り言を言いながら空席を見つけて座った。

一席開けて女子高生と思われる子が勉強していた。『セミナー化学基礎』。化学基礎ということは一年生だろう。高校時代、化学は持っていなかったが『セミナー物理』は持っていた。セミナーは結構好きな問題集だった。頑張れ。

ほどなくして隣にその女子高生の友達の女子高生が座った。彼女も勉強をしに来たようだ。『4STEP』。これまた懐かしい。頑張れ。この前僕の大学受験が終わったと思ったら、もう後輩たちが大学へ向けて勉強をしている。新陳代謝のいい世の中だ。

この二人に集中して勉強してほしい気持ちと、読んでいた『東京百景』がきりのいいところまで読み終わったのとコーヒーの利尿作用が相まって僕は店を後にした。

 

三月の旭川東高校グラウンド

最低でどん底の日々を過ごした大学一年の一年が終わろうとしている。そんな三月。旭川に七か月ぶりに帰省した。

帰省初日は中学三年の学校祭でコントをした原君と黒ちゃんに会って焼肉を食べながら近況を語り合い、最後にカラオケで竹原ピストルを発狂したように歌った。

二日目は昼の二時まで寝てR❘1グランプリを見た。

三日目。春休みに入り、完全に体内時計が破壊されていた僕は当然のように昼の二時くらいに起床した。駅前のイオンのスターバックスでかねてから実行に移せなかった『北海百景』の執筆をようやく始めようと思い、外に出た。

スタバには二週間ほど前に人生で初めて行った。札幌の紀伊国屋の中にあるスタバだ。どうせ何を頼むのにも高いのだろうと勝手に思っていたし、あの店はお洒落でSNSを使いこなし、今をときめいている人たちが行く場所だと思い避けてきた。クリスマスに彼女のいない男四人でオンライン飲み会をするような冴えない男子大学生が行っていい場所ではない。

しかし紀伊国屋の中のスタバなら「読書」という口実で入れる気がした。通りに面した席でパソコンやら参考書を広げて格好よくふるまう必要がない。無論、その人だって格好つけているわけではないだろう、たぶん。又吉直樹さんの『東京百景』とともに人生初のスタバ入店。でもそれはまた別のお話。

駅前のスタバに行く前に母校の高校に行った。所属していたラグビー部は僕が卒業した直後に入学した一年生が一人も入らなかったそうだ。僕の一学年下の二人が引退し、残されたのは顧問の先生と僕の二学年下の二人。あの二人がそんな体制になってもなお活動を続けるとは思えなかったが、ほんの少しの期待にかけてラグビー部が活動していたグラウンドに足を運んだ。

旭川の冬は厳しい。ラグビー部は冬でも基本外で活動する。ダイアモンドダストが煌めく中で練習試合をしたこともあれば、タックル練習中にホワイトアウトでその日の活動が終了したこともある。そんなこんなでラグビー部の活動しているエリアは雪が踏み固められていてどこで活動が行われたかが一目瞭然になる。

しかしいざ来てみるとラグビー部の活動場所だったエリアは足跡一つ無いきれいな雪原が広がっていた。部室とされていた小さな家庭用物置はドアがレールから外れて斜めになっていた。我がラグビー部は無くなったのだろう。

予想通りの結果に驚きはしなかったが、人の気配がしないかつての練習場所を見るのは想像していたより悲しいというか寂しいというか。幼少期を過ごした小さな島に何十年ぶりに元島民の方が訪れ、草の生い茂ったかつての住居を眺める、というのをたまにテレビで見る。その方たちとこんなことを一緒にするのは申し訳ないし、レベルが違う。しかしレベルは違えど同じベクトルの出来事ではあると思う。

向いていないと思い続け、何度もやめようと思ったラグビーだが、無きゃ無いでなんか寂しい。こんな僕でもラガーマンなんだ。引退して一年半、ようやくそう思えた。

 

 

 

コロナ禍の変化なのかはわかりませんが、時間が有り余ってしょうもない日常をしょうもないエッセイにしている時期がありました。その中には皆さんにお見せできないようなもの(実はそういう話のほうが気に入ってるし面白いものになっていると思う)もいくつかありまして、今回はお見せできるものの一部を紹介させていただきました。読み終わった方の中には「死ぬほどつまらなかったわ」とか「読んだ時間返せや」といったことを思う方もいるかもしれませんが、私は無駄を無駄と知ることも割と大切なことだと思います。このエッセイはそういうものです。

 

二年目 タンジェンツ

 

 


劇団しろちゃん2021年秋公演
『大国映画村二〇二一』

日本列島津々浦々、どこかにございますこちらの大国映画村。

昨年から続いております流行り病の煽りをうけて
村では閑古鳥が鳴いております。
お客様は少なくなるわ、人手は足りないわ…
と散々で、まさに泣きっ面に蜂でございます。

そんな最中ではございますが
村の中にある小劇場大国座では、本日も役者が芝居をしております。
少し覗いていってはいかがでしょうか。
笑いあり涙ありの人間模様が見えるやもしれません。

✿日時
2021年10月
15日(金) 19:00
16日(土) 11:00・15:00・19:00
17日(日) 12:00・16:00
(開場は開演の30分前)

✿料金
一般 1000円
配信チケット  800円
※当日券はありません

✿場所
演劇専用小劇場BLOCH
札幌市中央区北3条東5丁目5岩佐ビル1F

✿脚本
名雲幸秀

✿演出
喜多恭平

✿出演
中川悠斗
星加悠介
吉井伶衣
渡部怜眞
石川茉里
髙橋諒成
片山侑樹
櫻井凛太朗
白石光
竹内未奈
鈴木優子

✿各種SNS
Twitter:@shiro_hokudai
#しろ国座でチェック!!
Instagram:@shiro_hokudai
HP: https://gekidanshirochan.com

✿お問い合わせ
電話 :080-9007-3511 (制作)
メール:shiro_chan95@hotmail.com

✿ご予約
https://www.quartet-online.net/ticket/shirokokueigamura
(配信のURLはもう少しお待ちください)
ご記入いただいたメールアドレスには、ネット配信の予約URLが準備でき次第同URLをお送りいたします。またステージ当日10/15~17が緊急事態宣言期間となった場合、すでにご予約いただいたお客様には大変申し訳ございませんが、一般予約をすべてキャンセルしていただき、配信のみの無観客公演に移行させていただきます。その際にメールにて配信用予約URLをお送りし、公演終了後に個人情報は破棄いたします。

✿早期予約特典
10月7日までにご予約いただいた方には
『劇団しろちゃんオリジナルポストカード』の画像データを、チケットの購入の際にご記入いただいたメールアドレスにプレゼントいたします!
役者たちからの手書きでのお礼メッセージ付きです!(もしかしたらスタッフからのお礼メッセージかも??)

後援:札幌市・札幌市教育委員会
本公演は札幌市文化芸術活動再開支援事業を活用した行事です

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