人前でモジャモジャする前に

こんにちは。演劇に足を踏み入れ続けて4年目、人前に立ち始め続けて7年目、来年ついに人前に立つ人間ではなくなりそうです

 

人前に立とうと思った理由は、先生に言われたから。そうして、そのまま3年間続けました。僕の3年、ツーセンテンス。その後、僕はしろちゃんに、ひいては演劇に、たしては人前であーだこーだする世界にいました。卒業してから入学、そして入学直後の忙しいようで浮き足立っているだけの期間に何があったか。薄く覚えていますが、言葉にして重ねてみます

 

 

 

 

新入生に適度に不親切な学期始まり。局所的な忙しさをもちろん経験している彼らは、考えのまとまらない僕らの脳みそに、はい か いいえで答えられる簡単な質問をねじ込み続ける。全くの0ではない興味からついて出た、はい。皆が大袈裟に喜ぶことで、完全に思考は停止した。お金払わなくていいんですよね、あざます!

 

 

 

 

もう少し、丁寧に

 

 

 

 

新歓はだいたい2,3週間くらい。どれにしようかな。家に引きこもる前に、先輩方の口車にでも乗っておいた方がいいのかな。色んなビラをもらったけど、揚げ物をするわけでもないから捨てるだけになっちゃうなあ。そういえば、あちらこちらに、ズボンや鞄のポケットに見せるタイプのハンカチみたいに時間割を入れている人がいる。そして、それを正面から抜き取って声をかける人もいれば、追いかけまわされている人もいる。僕は怖くなって、リュックから取り出した時間割を服の中に隠して、次の教室に移動する

 

とりあえず、クラスで話しかけてくれた人とラクロスサークルに行く。早速、自己紹介で全員ボケを振られる。さらに、下ネタかあ。ううん、変にボケるのもなあ。どうする? しんどいよね。中華料理屋だからご飯多くて助かるなあ。みんなボケずに答えてる。回してる先輩の声大きいな。ああ、ええと

 

悩むでもなく、悔やむでもなく、僕はどうしていつも冷静なんだろうと考えながら、電車に揺られる。クラスのそいつは特に何も言わないで帰っていった。仲良くなるのは少し先だろうか。もしかしたら、もう話さないのかも。先輩とのライン交換は回避したけど、していれば、流れでそいつとも交換できたかもしれない。1週間も動いていないラインを自分から動かしたことは数えるほどしかない

 

変な空きコマのせいで無駄に疲れた気がする。先輩方の笑顔が鬱陶しい。狭量を実数値にする研究は為されていないのだろうか。僕は多分、40くらい。むしろ、あのくらい怠そうにしてくれていた方が好感が持てる。いや、怠そうというか、ただ立っているだけだ。しかも、全身黒で髪もべっとりキメている

 

遠巻きに2,3分みていると徐に歩き出した。北部食堂とS棟の間、舗装されていない道。僕の他にも見ている人がいたようで、不自然に離れてついていった。僕が来る前に告知でもあったのだろうか。何だか少しときめいた。これが大学なのだと思ってしまいそうだ

 

休日。ひとりで競技スキー部へ。実際にスキー場で滑る。子供の頃から滑っているけど、先輩は流石にうまい。コブに連れて行かれて、上手く滑れない自分に気分が落ちる。帰りに奢ってもらった一幻は、美味しいけど一度だけでいい味だった

 

平日。ひとりで自動車部へ。いくつかある競技のうち、ドリフトを選んだ。高速で20分ほどいったところ。道中、しっかりと法定速度を超え、少し楽しかった。3,4種類の車に乗せてもらい、漫画で見たことのあるような車もあった。部品から組み上げたりすることもあるらしい。中でも一番インパクトがあったのは、ホンダのフィットだ。小柄な車がギュインギュインと曲がっていくのは、おもしろく、程よく酔った。めっちゃ吐きそうだった。帰りのびっくりドンキーも含めて、とても楽しそうなところだと思った

 

しかし、入らなかった。次の日にきた先輩からのラインは、結果的に無視してしまった。罪悪感は薄く伸ばしてボサボサのパーカーに馴染ませてごまかすことにした。この世に存在しない色のパーカーは何だって受け入れてくれるのだ

 

そして、また、ここにいる。この中途半端で誰の邪魔にもならないところに立っている

 

そして、ついていく。何も知らずに、ついていく。賢そうなカラスの声も気にならないほど、不自然に綺麗な彼の歩き姿ばかり見ている。ピシと伸びていない手先も、やはり綺麗なのだ。つられてポケットから出た手は、やり場をなくして頭を掻く

 

牧場を横目にみえてきた建物。サークル会館。心眼を持つであろう受付のおっちゃんは、もちろん僕をスルーした。管楽器が鳴り響く。高校生活を思い出した頃、2階の一番奥の部屋に着いた

 

ドアや小窓から黒い布がはみ出ている。小さく音楽も流れていて、なるほど、文化祭みたいで少し楽しい。変わらず案内はなく、ぎこちなく中に入る。舞台だ。それと言えるものは生で一度も見たことはなかったが、ひと目で舞台だとわかった。暗い室内に、並べられた椅子。何より吊るされた照明と舞台上に置かれた物が僕のワクワクだけを増やしていく。おそらく照明を操作する人が見える位置にいるのもサークルらしく、この近さがいい違和感でおもしろい

 

にしても、僕ひとりしかいない。まあ、あれが宣伝ならひとりでも多いくらいなのかなと納得して、静かに座る。荷物を隣の席に置こうか少し迷って、床に置く。買ったばかりのanelloのリュックもまさか初めての床がコンクリだとは思うまい。しめしめと思いながら、何となく椅子の下へ。前や横ではない気がした

 

音量が上がる。照明が落ちる。目が慣れた頃、照明が点く。さっきの男だ。案内してくれない案内人だ。あのままだ。あのまま舞台に立っている。あそこから始まっていたのだろうか。演劇の見方もわからないなりに考える。するともう一人、キマっていない人が現れた。全身黒だが、モジャモジャだ。画力がある。もう始まっているのだろう

 

もう始まっていた。絶えない世界観に気持ちのいい間隔。それでいてどこかアドリブのような、違和感のある自然さが新鮮だった。ゆったりと早かった。自然とニヤけていた。集中していることがよくわかった。わからないこともあった。けれど、わからないことは嫌じゃなかった。わかりたいけど、わからないこともあるのだろうと思った。わからない方がいいのかもしれないと思えた

 

思わされてしまったので、わからないまま、はい、と言った

 

みんなが喜んだ。5回は前転できそうな長机にビシと並ぶみんなが拍手した。さっきの人たちはいない。きっと遅れてくるんだろう。なんでこのあだ名になったのかもわからないし、なんで壁側中央に座ってしまったのかもわからない。トイレに行きたい。トイレに行くきっかけのために、はい、と言ったような気もする。ただ、何を聞かれても、鬱陶しくはなかった。きっとお芝居をみて、人間的に深みが出たのだろう。120くらいかな。タレがパーカーについた。先輩が話してる最中だったけど、トイレに行った

 

靴を脱ぐのも面倒だなと思い、外に出る。4月の夜は当たり前のように寒い。上着を持ってくればよかった。変に大きな声が聞こえる。大きな通りを挟んだ電気屋の横。誰かが座り、誰かが立っている。べっとりモジャモジャキメていて、ハッキリ伸び伸び歌っていた。変な歌だ。しかもモジャモジャはタンクトップだ。おもしろい。やりたいなあ

 

先輩方に聞いてみるとみんなが知らないフリをする。絶対に知っている。絶対にみんな出会っている。聞かれ慣れていて、答え慣れていた。慣れすぎていた。慣れすぎている違和感さえも、とても自然で気持ちよかった

 

あの人たちに出会い続けて4年目が終わろうとしている最近も、あの人たちはやっぱりいない。いない方がいいのかもしれない。いたら見ているだけになっちゃうし。リュックもやっぱり汚しちゃ嫌だし。どうせなら、僕もあの人たちになりたいし

 

人前に立たなくても、なれるみたいだし

 

4年目  ヴィトン

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