すかいの超次元しろぶろ Vol.1「春」
しろちゃんへ向かう道のりは、往々にして長く感じた。家畜の糞便のにおいを潜って、会館の風除室で一息をつく。
パーカーの上に羽織っていたカーディガンを外すと、まだ少し寒かった。
真っ只中の春には変に見える格好だと思うのは、まだこの土地になじめない自分を意識させた。
部屋に入ると、まだ馴れ初めだという空気を嫌でも放ちながら、皆、各々の出会いを歓迎していた。
あまりにも春だ。春は出会いと別れの季節だと多くは言うが、僕にとって、出会いが別れに勝るわけがなかった。
物心あるころから引っ越しはしたことがない。使わなくなったゲーム機や読まなくなった本も捨てられることを拒み、ほこりが覆ってなおその様子に安心を覚えるような人間だった。
つまり、はっきりと言わないのも気取っているので言っておくと、僕は春が嫌いだった。
しろちゃんでは最初、僕は一人でいることが多かった。
けれど、気狂いかと思うほどやさしい皆は、こんな僕にも話しかけてくれた。
それでも学館の夕飯がと言い、僕は一人足早に帰った。
この時期の空気。どうにも好きになれなかった。この年になると自分で自分を理解してくるからか、こんな僕でも恨みはしなかった。
来る時よりも短くなったような帰路につきながら、ただこの時期が過ぎてほしいと考えていた。
これは僕の性だ。だから、変わることはあきらめていた。
そうだった。そうだったはずなのに、今年、僕は春が好きになった。
いつかの日、理由は覚えていないが、いつもより早く会館に向かおうとした。
また、長い道を歩くはずだった。けれどその日はいつもと違った。誰かが自分を呼ぶ声がし「すかい!!!」
…ッな、なに!?どうした?
「スタ会!はじまるよ、時間見て!」
あ、ああごめん、集中してて、、、。
「はあ、最近いっつもそれ。なに書いてるのか見―しーてーよっと。」
っちょ!勝手に、、、
「なにこれ!ポエム?こういうの書くんだ、いいね!」
しろぶろ用にね。多分、採用しないけど。
「なんでよ!これまだ途中っぽいし、完成したらちゃんと見たいよ。」
、、、まったく。
「ってか時間!!先行ってるよ!」
、、、
書ききっていなくてよかったと、そうかいた冷汗は、最近では慣れた感覚だった。夏が来る。以前の僕では考えられないが、感じていたのは安堵ではなく焦燥だった。これも全部、そう、あの日からだった。
その日、誰かが僕を呼ぶ声がした。ただ反応のままに何も考えず振り向くと、そこには優しい笑顔でぽつりと、君がいた。
少し話したことのあるくらいだった君は、何か疑うほど会話がしやすかった。
君と僕とは、はたから見ても慣れてない様子で、目をチラリと幾度も見合いながら、つがいのチョウチョウのようにゆらりゆらりと歩いていた。だのに、あれほどふだん長かった会館までの道のりは、不快なほど早く、短く感じた。
その日、初めて会館でアイスを買った。イチゴ味のアイスは甘酸っぱく、ずいぶんと美味しかった。
その日からもうひと月は容易に過ぎただろう。
この先、君との関係はいかようになろうかと苦悶するをみるに、やはり変化は微塵も好きじゃない。
けれど考える。この春のうちに、君とまたあの道を歩きたい。
それとも、誰も知らない僕の想いは、まだ肌寒いこの春の風に乗って消えていくのだろうか。
僕の春は君に変えられてしまった。
※フィクションです。
1年目_舞台 すかい

